万が一、今この瞬間大規模な災害に遭遇したら……、あなたは自分のサロンやお客様を守ることはできますか?
災害大国と言われている日本では、6月から大雨や台風といった災害が各地を襲い、様々な被害を残しました。美容サロンでも被害を受け、経営ができない状況に陥っているお店もあることでしょう。
大雨や台風なら、現代の予測技術の発達からある程度前もって対策を立てることも出来ますが、地震や火山の噴火などは突如発生するので大雨と台風のようにはいきません。急な災害に見舞われても大きな被害を出さないためには、日々の災害対策が必要です。行政の防災助成金や補助金を活用し、コストを抑えて計画を立て有事に備えましょう。
2011年の東日本大震災以降、話題にあがってきているのが「企業防災」という言葉です。サロンオーナー様も経営者として理解・認識をしておくことでサロンを守ることができます。内閣府が発表している「企業防災」の理念を紐解くと、サロンも企業として2つの面から災害対策を考え、準備をしなくてはいけません。
1つ目は「防災」として、サロンスタッフや設備・財産を守ること、直接的な被害や二次被害を最小限に抑えるための事前対策。2つめは「事業継続」として、重要な事業が存続できるように取り組む・早期復旧のための事後対策です。
日本の企業の多くは既に防災への取り組みを行っていたこともあり、これまでやってきたことと特に違いはないように思われるという意見も多くあります。しかし、従来の防災対策にとどまっていては、企業の災害、事故対応としては不十分だという考え方も広がっており、この2つの対策を講ずることが推進されています。
また、事業主としてサロンオーナーは、労働契約法においてサロンスタッフの命を守る配慮をするように定められています。災害発生時の被害状況などによっては法的責任まで問われる可能性があるので、サロン全体で「企業防災」を考えましょう。
311以降、多くの人々が防災に対して意識をするようになりましたが、あなたのサロンでは防災の備えを何か行っていますか? 非常時持ち出し袋は最低でもスタッフ全員分は用意しておきましょう。営業時に災害が起こった場合に、来店されているお客様へも持ち出し袋を渡せるように、サロンのキャパシティ分は用意しておくと安心です。あらかじめ持ち出し品の中身がセットになったものも販売されていますが、常備薬や生理用品など個人で必要となるものが違いますので、個々で中身を入れ替えておくと心強いです。
サロンで滞在することが不可能な場合は、近隣の安全な場所・避難所へ移動し、避難生活を送ることになります。避難所生活に必要なものを持ち出し用のバックパックに詰めておき、有事の際すぐに持ち出せるように用意をしておきましょう。非常時の持ち出し品は日本赤十字社が見本を一覧表で公開しているので、検索して参考にしてください。
また、持ち出し品以外に防災の備えとして重要となるのは、サロンの設備の災害対策です。高価な機械や、備品・消耗品・物販商品、それらを収納する戸棚などが多数あります。それらが倒れてしまったり、崩壊したりすると被害がさらに大きくなってしまいます。倒れる可能性があるものはしっかりと固定をしておきましょう。
突っ張り棒式の固定具を棚と天井の硬い部分に取り付けることで転倒防止になります。もしくは、L字型の金具で棚と壁を固定することも有効です。冷蔵庫などの重い大型家電・家具は、裏側をワイヤーなどで壁に固定しておきましょう。開き扉のタイプの収納には揺れで扉が開き収納物が飛び出さないように留め具を付け、ガラスには飛散防止フィルムを貼り対策をしましょう。
鏡も落ちて割れてしまうことのないように、しっかりと接着・固定されているか確認が必要です。飛散防止フィルムや専用のコーティングをして、災害時に鏡の破片がお客様にかからないようにしましょう。ハンガーラックや観葉植物、置くタイプの照明も倒れる危険性があるので、壁や床に固定をして、釣り型照明はワイヤーで天井に固定することで落下を防げます。
路面店のサロンの場合は、入口全体がガラス張りになっていて、サロン内が見えるおしゃれな内装が多いです。しかし強風や地震が発生するとガラスが割れてしまう恐れがあります。強風で物が飛んでこなくても、ガラスの強度が低いと風圧だけで割れてしまうこともあります。対策として、強化ガラスに替えたり、飛散防止フィルムを貼ったり、コーティング剤を塗布して備えましょう。予算的に厳しい場合は、カーテンを設置し、強風時には閉めるようにすると店内への飛散防止に効果的です。また、素足になることの多いエステサロンやネイルサロンでは、ガラスの破片が飛び散った部屋でも安心安全に移動・避難ができるように、施術台の近くにスリッパなどを用意しておくと安心です。
店舗の外に看板を構えている場合、掲示物は落下する恐れがあります。もし所有する看板の取り付けが不十分なまま、それを分かった上で危険な状態で放置し、災害時に第三者や物に被害を出した場合は管理責任に問われます。例えば、実際に起こった事例では地震でブロック塀が崩壊し、第三者が怪我・死亡した事例において民事訴訟・刑事告訴されています。定期的に建物全体の点検をしっかりと行い、整備を完全なものにしましょう。
デパートやショッピングモールなどの商業施設にテナントとして入っているサロンは、定期的に施設が全体の防災・避難訓練の実施を行っています。災害が起きた場合は施設の防火管理者や誘導係員の指示に従って速やかに逃げましょう。
大規模な災害が発生すると、電気・ガス・水道・ネット通信など、生活をするうえで必要になるライフラインが止まってしまうことがあります。ライフラインが止まっても生活ができるように日ごろから備えておくことが大切です。
例えば、エステサロンではお客様の体にジェルやクリームを塗布し、施術後にシャワーを必須としているサロンもあります。断水時、シャワーは使えなくなるので、身体を拭くためのウエットティッシュを多く備蓄しておくと良いでしょう。
断水と同じくらい怖いのが停電です。停電してしまうとレジが使えなくなり、会計ができません。スマホやタブレット端末も充電が切れると使用できなくなります。空調設備も停止してしまい、真夏や真冬はかなり厳しい状況に陥ってしまいます。業務用の非常用バッテリーや小型の発電機などを整備して対策しましょう。
災害が発生した場合、自身の安全確保が最優先ですが、その後にサロンオーナーがするべきことは従業員やお客様の安否確認です。安否確認することで、その後の避難や救助・復旧作業などのするべきことが明確化します。これまでに様々な災害の被害にあってきた日本では、多くの安否確認のツールや手段があります。今一度、ご自身のサロンでどのような安否確認方法を行うのかスタッフで情報共有しておきましょう。
一番手軽に使用できる安否確認方法は、携帯キャリアの災害用伝言版サービスです。事業者間をまたいだ安否確認ができる「全社一括検索」サービスがあるので、キャリアが違う人同士でも利用できます。サロンの営業時間は固定電話でも活用できる災害用伝言ダイヤル(番号:171)を必要に応じて活用することをお勧めします。
従業員の安否確認と同様に大切なのがお客様の安否確認です。営業時間中はサロンに向かっているお客様がいます。災害が起きてから、直近の時間に予約のあるお客様から順に、電話を使って安否確認を行いましょう。そして、サロンの被災状況に応じて来店をお断りしなければいけないこともあるので、予約の変更やキャンセルについて確実に連絡を取りましょう。お客様がもうサロンの近くまで来られている様でしたら、避難場所としてサロンを活用してもらい、サロン自体が危険な状態であればサロンの近くの避難場所を伝え、安全を確保してもらいましょう。
被災状況や天候状況によっては、サロンを臨時休業をせざるを得ません。サロンのスタッフやお客様の安全を第一に考え、オーナーの迅速な判断が必要になります。休業することが決まったら、まずスタッフへの連絡を行います。全スタッフへの伝達が済んでから、お客様への休業案内とお詫びのご連絡をします。
休業案内の連絡手段としてはメルマガの配信システムの利用がおすすめとされています。日ごろからキャンペーンや夏季・冬季の長期休業の連絡ツールとして使っているサロンは多いと思われます。災害が起きて、電話回線やネット通信機能が麻痺したとき、お客様に電話をかけても連絡を取ることはできませんが、メールだと復旧後すぐに受信できるので、タイムラグは生じますが確実にお知らせが出来ます。
次に利用すべきは、サロンのHPやSNSです。誰もが更新できる口コミサイトの営業状況よりも、サロンが直接配信しているHPに休業案内を掲載する方が信頼されます。確実な情報を発信できるシステムを整備しましょう。また近年、情報取得の手段としてSNSを利用する人が増えています。リアルタイムで配信できるためタイムラグを恐れずに活用できます。しかし、SNSは災害直後に使用者が急増し、投稿数も増えます。投稿数が増えることで、サロンが発信した休業案内の投稿がタイムライン上で紛れてしまい、本当に情報を届けたい人に伝わらないという可能性があります。SNSを使って、休業情報を配信する場合は、数時間おきに同じ内容の投稿を繰り返し出しましょう。
災害が原因で休業した場合、各種保険で負担を補うことができます。各保険会社によって条件や補償内容は異なりますので、加入している火災保険や休業補償保険を見直しておきましょう。
防災の備えを講じる上で必要となってくるのがお金。サロンやスタッフの安全確保をしたいけど、資金繰りの問題でなかなか進まない状況も存在します。そこで活用すべきものが、国の制度から出る助成金です。
災害関係の助成金と言えば災害後の復興支援金や補助金のイメージが強いですが、実は災害後に適用されるものだけではなく、災害に備えて非常食やヘルメットの用意をしたときに関する補助金など、災害前の対策における助成金・補助金支援制度があるのです。
もちろん、備品や消耗品といった物資だけでなく、耐震補強工事などの防災・減災対策にも助成金や融資が受けられます。これから非常用グッズを揃えて、店舗の耐震診断や補強工事を検討されている方は制度をリサーチしてみることをおすすめします。
災害後は建物や機器・資材への補助金はもちろん、災害の規模を考慮し雇用保険制度の特別措置などが講じられます。経営を継続するためにもいざというときには申請できるよう、雇用契約書・就業規則・出勤簿・賃金台帳などをきっちり揃えて比較的安全な場所に保管しておきましょう。
防災対策には終わりがありません。今回紹介した対策だけでなく、一人一人が、被害の大きさや危険性を考え、その災害の被害を出来るだけ抑えるために必要な対策を取ることが重要です。自然災害に強く、地域に根差した安心できる、頼りがいのあるサロンを作りましょう。サロンにとって災害対策はスタッフやお客様を守り、経営を継続させるために必要不可欠なのです。