近代に近づくと、理髪店がさらに普及し、男性の『髭』は理髪店で剃ってもらうことが一般的になります。
1800年頃にはフランスで、安全カミソリが発明され、イギリスで改良版が製造されます。
1901年になるとアメリカで使い捨ての替え刃ができるT字形安全カミソリが発明されました。
これによって大多数の人々が自分で安全に毛を剃ることができるようになります。
1921年には、アメリカ人のジェイコブ・シックがアラスカに赴任した際に、水によって凍ったカミソリで髭が剃れなくなったことをきっかけに、電気カミソリを生み出します。
電気カミソリは回転式や往復式などさらに改良が重ねられ、より肌に優しく毛が剃れるようになりました。
『髭』は『不潔なもの』という概念が薄れ、『お洒落』や『個性』を表現する一種のツールとして、考えられるようになります。
1960年後半になると、アメリカを中心にミニスカートが女性の間で大流行し、同時期にウーマン・リブ運動(女性解放運動)も起こります。
性差別の撤廃や女性の社会進出を掲げた運動が活発化すると、ノースリーブが流行し、女性が足や脇を積極的に露出する機会が増えました。
そういった背景の中、女性の嗜みとして、腕や脇毛の処理が一般化していきます。
除毛方法は主にカミソリが使われました。
その後、脱毛が浸透すると、男女問わずブラジリアンワックスですね毛やデリケートゾーンを処理することが『エチケット』とされ日常的になります。
1875年に発明された電気分解法を皮切りに、世界中で科学的なアプローチによる脱毛法が模索されます。
X線脱毛や高周波電流法といった施術法が発明されました。
しかし、肌への負担が大きく、シミができてしまったり傷跡のようになってしまったりと、安全性には欠けるものだったようです。
1948年になると、電気分解法と高周波電流法が組み合わされたブレンド脱毛法が開発されます。
これは針に電流を流し、毛根にその針を差し込むことで、毛を1本1本脱毛する施術法で、今ではニードル脱毛と呼ばれています。
ニードル脱毛は今でも主要な脱毛方法の一つとして用いられていますよね。
さらに、1983年にはアメリカで特定の組織だけを反応させるレーザー技術が生まれます。
この技術を応用した研究が進み、効果や安全性が高いレーザー脱毛として、多くの国に普及しました。
1997年には医療脱毛機が導入され、翌98年には、ついに強力な光を用いて無痛で脱毛を行う光脱毛が開発されます。
このようなテクノロジーの進歩が、世界規模での脱毛ブームを押し上げていきました。
99年ごろには大手エステ店が続々と脱毛界に参入し、低価格で脱毛が気軽に受けられるようになります。
男性のエステや脱毛の市場も一気に拡大しました。
アメリカでは有名なスポーツ選手がファッションの一部として体の一部にタトゥーを入れたことから、若い男性の中でこれが流行りました。
タトゥーを掘る時に無駄な毛があると、掘る場所が少なくなることから、タトゥーを掘る為に脱毛をする男性が増えています。
また、ヨーロッパでは、ロードバイクやクロスバイクといったスポーツが盛んです。
こういったスポーツ系の自転車に乗る人は、転倒時に傷の中に毛が入り込むのを防ぐために、胸毛やすね毛を脱毛しています。
ただ、現代のヨーロッパ人の男性の多くは『脱毛は個人の自由』として、する・しないは個人差がとても大きく、傾向にはバラツキがあります。
全身脱毛しているのが好きな人もいれば、無理に処理せずナチュラルに生やしている男性もいます。
こうして、脱毛機の登場により、世界規模で男女問わず気軽に脱毛ができるようになりました。
一方で、反脱毛への動きも1970年ごろから見られるようになります。
ムダ毛は不潔ではない。そのまま出す方が自然だ、という考え方です。
美容目的の脱毛が始まってから、積極的な反脱毛思想は、この時が初めてだと言ってもいいかもしれません。
古来より、『無毛は美しい』という思想が、現代において『女性は脱毛すべき』という強制的な観念にまで上り詰めたことが発端と考えられます。
この反脱毛思想は一定の支持を受け、2016年頃になると、アメリカでは9割程あった腋毛やすね毛の脱毛処理率が、8割程度まで低下します。
2020年、欧米やヨーロッパを中心に、女性の体毛は自然だとアピールするジャニュヘアリー(Januhairy)運動が注目されています。
『女性に体毛は存在しない』という幻想に反抗し、あえてムダ毛を剃らないという女性が増えてきているのです。
毛を生やすことが自由の象徴であるという、女性の自由意志を尊重するフェミニズムは、SNSを中心に拡散され、多くの人々の反響を呼んでいます。
腋毛にヘアカラーをして、ファッションとして楽しむ人もいれば、
ハイブランドメーカーも、『毛を見せるファッション』を広告として採用したりと、今新しい運動の輪が広がり始めています。
紀元前3000年前という遥昔から、外見的容姿を美化する文化は現代まで続いています。
しかし、2021年を迎えた今、『自由は美しい』という、目で見えないものに美しさを求める動きが見られようとしています。それは、真の自由世界を作ろうという流れに他なりません。
美容業に携わる私たちも、長い脱毛の歴史を学び、『美しさ』とは何かをもう一度考える時が来た、ということではないでしょうか。
脱毛の歴史は奥が深いものでした。
次回は日本の脱毛の歴史についてお届けします。