“脱毛って一体いつから始まったんだろう”と考えたことはありませんか?
エステサロンで働いていても、意外に知らない脱毛の歴史。
いつ、誰が、どんな目的で始めたのでしょうか。
ということで、今回は”世界の脱毛の歴史”について見ていきたいと思います!
さて、時はさかのぼること20万年前。
私たちがまだ“日本人”、“アメリカ人”と呼ばれる前の、“ネアンデルタール人”が出現した、原始時代まで遡ります。
旧石器時代、ヨーロッパを中心に西アジアから中央アジアにまで広く分布し、石器を使って生活していたネアンデルタール人。
現代のように“美しさ”にこだわるようなライフスタイルとは程遠いこの時代に、彼らによってすでに脱毛は始まっていました。
しかし、それは“美しさ”を求めるためではなく、衛生的な観点からの脱毛でした。決して衛生的とは言えない古代の生活環境では、体毛はノミやシラミなどの寄生虫の温床でした。
シラミが体毛に付着すると、皮膚まで移動して吸血し、かゆみや湿疹を引き起こします。
古代ネアンデルタール人にとって、体毛の除去は生きていく中で必要不可欠な行為であったのでしょう。
ではどのように脱毛を行っていたのでしょうか。この時代の遺跡から、ナイフのように鋭く研がれた石器がいくつも見つかっています。彼らはこの研いだ石器を使って、削るように毛を剃っていたとされています。
旧石器時代からすでに“体毛を剃る”ということが、習慣として存在していたのですね。脱毛は、私たちが考えるよりはるかに深く、長い歴史を持っているようです。
ネアンデルタール人から始まった脱毛ですが、その後、ヨーロッパを中心に様々な時代背景の中行われ始めていきます。
西にユーフラテス川、東にティグリス川に挟まれ、交通の要衝として様々な民族が発展したメソポタミア。
この地において、紀元前3500年にメソポタミア文明が繫栄しました。
この時代を支えたのは、世界最古の文字である楔形文字を作ったことで知られるシュメール人です。
シュメール人は、ピンセットのような道具を使って毛を抜いており、これが最古の脱毛法と言われています。
シュメール人は、文字によって円滑な情報伝達を可能にし、神や占いによって政治を執り行う神権政治を活用していました。
この頃から、人間の体毛は『不浄』だという宗教的概念が生まれ、後の古代ローマをはじめとしたヨーロッパにまで、広く影響を与えています。
シュメール人の脱毛の目的については、詳しくは分かっていませんが、宗教的な意味合いが強いのではないかとされています。
イスラム教が浸透する以前の地中海沿岸に住む古代アラブ人は、ひもや縄を脱毛用として広く用いていました。
指で紐を操り、毛を挟んで抜いていたようです。
古代アラブは、国家ではなく、ただの部族社会の集まりでした。
部族間での抗争も多く、野蛮な行為もめずらしくはなかったことから、脱毛は衛生上の対策として行われていたとされています。
ひもを使ったこの脱毛技術は、現在では『スレッティング』と呼ばれ、今もこの地方に伝わっています。
紀元前3000年頃になると、美容としての脱毛が始まります。
古代オリエント文明のアッシリア、その後に繫栄したペルシャでは、王が複数の妻を持ち、男子禁制とするハーレム制度が主流でした。
このハーレムの女性たちを中心として、ムダ毛処理が一般的に行われていました。
脱毛剤は、硫黄、石灰、でんぷんを水でペースト状にした脱毛剤を使用していたそうです。
これは現在のワックス脱毛の原点となる脱毛法です。
ワックス脱毛は今ではブラジリアンワックスが良く知られていますが、この時代から行われている歴史ある脱毛法だと言えるでしょう。
この時代で有名なのが、アッバース朝時代の物語である『千と一夜物語』です。
この説話集の中にある『アラジンと魔法のランプ』なら、皆さんもご存じではないでしょうか。
ヒロイン(原作ではバドルウルバドゥール)もワックス脱毛していたのかも?と想像すると、太古の話も身近に感じますよね。
同じく、紀元前3000年頃、ナイル川流域で誕生した古代エジプトでは『体毛は不潔』とされていました。
『善と悪の精は頭髪を伝わって出入りする』という迷信があったそうです。
そこから、鋭く研いだ燧石やかき殻などでヘアカットやシェービングをする理容業が生まれます。
除毛は悪の精を追い出すという宗教的な意味合いで行われていました。
なので、理容師は僧侶と薬学者を兼ねた性質を持っていて、除毛作業は宗教的な儀式とされていたそうです。
儀式と聞くと、ミステリアスな雰囲気に聞こえますが、現代の日本でも、お相撲さんが引退する時に髪を切る、断髪式があります。
皆さんもニュースで何度か目にしたことがあるのではないかと思います。
『髪を切る』ことは、切られる方も、切る方も、またそれを見る人にとっても、精神的な力を感じる行為ですよね。それは、この古代エジプトの時代であっても同じだったのだと思います。
こうして、専門家である理容師によって、上流階級の人間は、体だけでなく頭部を含めた全身を脱毛していました。エジプト王で有名なファラオも、頭から足の先までツルツルにしてカツラをかぶっていたそうです。
書物によると、当時の脱毛剤は、焼いたハスの葉を、油と一緒にカメの甲羅に入れ、カバの脂肪を加えたワックスを肌に塗り、一気にはがして毛を抜くという方法だったそうです。脱毛の専門家というだけあって、使う材料も希少なものが使われていますよね。
宗教的な理由で始まった古代エジプトの脱毛ですが、次第に『無毛の体は美しさの象徴』という思想に発展していきます。
古代エジプトの埋蔵品や工芸品の中には、ブロンズのカミソリや長い刃のカミソリも発見されており、ワックス脱毛だけでなくカミソリでの除毛も行われていたと考えられています。
2600年頃までは、頭髪を剃ったり短くしてカツラを被るのは王者の特権でした。
カツラを被るのは、権威を表すだけでなく、砂漠の強い日差しやシラミから頭を守るためでもありました。
カツラの下に網のネットを被ることで通気性が向上し、快適に過ごせたそうです。
庶民は、暑さとシラミ対策のために髪を剃るか、短く刈り上げているのが一般的でした。
その後、次第にカツラはあらゆる階級に受けいれられていきます。
人々はカツラや装飾品を身に着け、顔や体の脱毛に気を配り、ファッションや美容にこだわった生活を送っていたようです。
特に女性は滑らかな肌が好まれました。
一方、頭髪に関しては以前の価値観が変化し、徐々に髪を伸ばすようになっていきます。
伸ばすだけでなく、髪質を高め、保存し、増やす努力をしたそうです。
様々な頭飾りも登場し、ヘアアレンジも増えていきました。
女性のヘアスタイルは厚みのあるボブから胸の前へたらすロングへと流行が移り、『頭髪』はより『おしゃれ』の意味合いが強くなっていきます。
男性も、黒くボリュームがある髪が良いとされたそうで、当時の文献から、薄毛の直し方や白髪染めの記述も見つかっています。
しかし顎と頬のひげ、体毛は引き続き見苦しいものと考えられ、男女共に脱毛していました。
脱毛の理由にはシラミを防ぐという衛生的な面もあったそうです。
太陽神ラーの化身として政治を行い、神官が支配階級を形成していたこの時代、神官だけは、頭髪を含めた全身を常に脱毛していました。
政治的、宗教的な時代背景のもと、『体毛は不潔』という概念は、長く古代エジプト人によって確立されていったのです。
紀元前1570年頃のエジプト第18王朝時代では、刃の部分と柄の部分が別々になった折り畳み式のカミソリが登場します。
現代のカミソリの原点はここだと言ってもいいかもしれません。持ち運びやすさを考えたカミソリだったことから、脱毛の道具もどんどんと改良が進んでいったことが良く分かります。
紀元前30年、世界三大美女と言われるクレオパトラは、当時流行していた脱毛法でムダ毛を除去していたことが報告されています。
その脱毛法とは、砂糖と蜂蜜、蜜蠟を練ったものを肌にのせ、毛を抜くという脱毛法です。
これは、現代におけるワックス脱毛の一種である『シュガーワックス』と呼ばれるものと、ほぼ同じ脱毛法です。
ブラジリアンワックスよりも、ソフトで肌に負担をかけにくい脱毛法だと言われています。
さすが、世界三大美女と謳われただけあり、美しさにはとてもこだわっていたことが分かります。
クレオパトラと言えば、くっきりとした眉と、目の周りを囲んだアイメイクが有名ですが、この時代の化粧は、魔除けや虫よけのためだったようです。
その後、7世紀初頭になると、現在のサウジアラビアにあるメッカを発祥地として、イスラム教が生まれ、宗教的発展を遂げていきます。
約1400年前から存在すると言われている、イスラム文化圏の聖書であるコーランには“ムダ毛は不潔である”と記されています。
もともとアラブ時代から存在した、清潔を保つ文化が影響を与えたと思われます。
コーランでは、男性女性関係なく脇とデリケートゾーンを脱毛し清潔に保つことが、厳格に定められていました。
その為、イスラムは古くから現在に至るまで、カミソリ等によってムダ毛を処理することが習慣となっています。
こうして古代オリエントでは、3000年間の長い歴史の中で、脱毛は生活に欠かせないものになっていきました。
ネアンデルタール人の頃は衛生的観念だけの脱毛でしたが、シュメール人によって宗教的な意味合いを持ち、古代オリエントでは美容としての脱毛が生まれ、エジプトやイスラム教の発展とともに、政治的、宗教的な行為になっています。
同じ『毛』でも、時代や場所によって、その価値観が違うというのは面白いですよね。
『脱毛の始まり』はまだまだ続きます。次回は、古代ギリシャ、ローマの脱毛を見ていきたいます。